Lesson4-4  自分ではできない死後のこと:死後事務委任契約

一人暮らしや、親族が遠方に居住などの理由で、葬儀や埋蔵など死後の事務手続きを第三者に依頼しなくてはならないケースがあります。任意後見人、成年後見人などは本人が死亡した時点でその職務を終了します。また見守り契約だけでは、死後の事務を行う権限がなく葬儀費用などの支払いはできません。そこで、生前サービスや遺言書ではカバーできない費用負担や事務手続きについて明確にしておくための契約が死後事務委任契約です。

死後事務委任契約とは

死後事務委任契約とは亡くなった後の事務的な手続きを委任するための契約です。該当する手続きは、下記のようなことが考えられます。

・役所への届出

・死亡した事等、家族や友人などへの連絡

・葬儀・埋葬手続き

・生前の医療費など未払分の精算

・遺品整理及び住まいの処分

・各種サービス(電話、インターネットなど)の解約

・遺言執行までのペットの管理をどうするか 他

これらは相続の手続きには含まれず、遺言等で依頼できる内容ではありません。たとえ遺言書に記載していたとしても、執行されるかわかりません。

特に、最近増えている一人暮らしの方などは、孤独死なども深刻な問題となっており、遺言書のほか、任意後見契約などと合わせて、死後事務委任契約を作成している方が増えています。「自分が亡くなった後のことは知らない」と何もしない方もいますが、膨大な調査の手間と執行費用が発生します。近所の方や遠い親戚、行政の方やヘルパーさんに迷惑をかけないよう、きちんと準備しておきましょう。

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死後事務委任契約の締結

死後事務委任契約は委任する人と受任する人との契約になります。口頭でも契約はできますが、契約書を残しておく事が望ましいでしょう。その際は、公正証書にすることが推奨されます。委任する手続きは、双方の合意で自由に決めることができます。ただし、注意したいのは、遺品整理や処分の手続きを契約書に盛り込んだ場合でも、「受任者が相続人と異なる場合」では、遺言書の内容と相違があれば、その処分自体ができないということもあります。遺言書とあわせて準備を進めましょう。

死後事務委任契約公正証書の例

ボリュームがありますが、以下に内容を例示します。

死後事務委任契約公正証書 

本公証人は、委任者〇(以下「甲」という。)及び受任者〇(以下「乙」という。)の嘱託により、次の法律行為に関する陳述の趣旨を録取し、この証書を作成する。

(契約の趣旨)

第○条 委任者甲と受任者乙とは、以下のとおり死後事務委任契約を締結する。

(委任者の死亡による本契約の効力)

第○条 甲が死亡した場合においても、本契約は終了せず、甲の相続人は、委

託者である甲の本契約上の権利義務を承継するものとする。

2 甲の相続人は、前項の場合において、第○条記載の事由がある場合を除き、

本契約を解除することはできない。

(委任事務の範囲)

第○条 甲は、乙に対し、甲の死亡後における次の事務(以下、「本件死後事務」という。)を委任する。

⑴通夜、告別式、火葬、納骨、埋葬に関する事務

⑵永代供養に関する事務

⑶老人ホーム入居一時金等の受領に関する事務

⑷別途締結した任意後見契約の未処理事務

⑸行政官庁等への諸届け事務

⑹以上の各事務に関する費用の支払い

(通夜・告別式)

第○条 前条の通夜及び告別式は、○寺に依頼する。

(永代供養)

第○条 第○条の納骨及び埋葬は、○寺にて行う。

(連絡)

第○条 甲が死亡した場合、乙は、速やかに甲が予め指定する親族等関係者に連絡するものとする。

(預託金の授受 預託金を設定する場合)

第○条 甲は、乙に対し、本契約締結時に、本件死後事務を処理するために必

要な費用及び乙の報酬に充てるために、金○万円を預託する。

2 乙は、甲に対し、前項の預託金(以下「預託金」という。)について預かり証を発行する。

3 預託金には、利息をつけない。

(費用の負担)

第○粂 本件死後事務を処理するために必要な費用は、甲の負担とし、乙は、預託金からその費用の支払いを受けることができる。

(報酬)

第○条 甲は、乙に対し、本件死後事務の報酬として、金○万円を支払うものとし、本件死後事務終了後、乙は、預託金からその支払を受けることができる。

(契約の変更)

第○条 甲又は乙は、甲の生存中、いつでも本契約の変更を求めることができる。

(契約の解除)

第○条 甲又は乙は、甲の生存中、次の事由が生じたときは、本契約の解除することができる。

⑴乙が甲からの預託金を費消するなど信頼関係を破綻する行為をしたとき

⑵乙が健康を害し死後事務処理をすることが困難な状態になったとき

⑶経済情勢の変動など本契約を達成することが困難な状態になったとき

(契約の終了)

第○条 本契約は、次の場合に終了する。

⑴乙が死亡又は破産したとき

⑵甲と乙が別途締結した「任意後見契約」が解除されたとき

(預託金の返還、精算)

第○条 本契約が第○条(契約の解除)又は第○条(契約の終了)により終了した場合、乙は、預託金を甲に返還する。

2 本件死後事務が終了した場合、乙は、預託金から費用及び報酬を控除し残

余金があれば、これを遺言執行者又は相続人若しくは相続財産管理人に返還する。

(報告義務)

第○条 乙は、甲に対し、1年ごとに、預託金の保管状況について書面で報告する。

2 乙は、甲の請求があるときは、速やかにその求められた事項につき報告する。

3 乙は、遺言執行者又は相続人又は相続財産管理人に対し、本件死後事務終

了後1か月以内に、本件死後事務に関する次の事項について書面で報告する。

⑴本件死後事務につき行った措置

⑵費用の支出及び使用状況

⑶報酬の収受

(免責)

第○条 乙は本契約の条項に従い、善良な管理者の注意を怠らない限り、甲に

生じた損害について責任を負わない。