老人ホームへの入居は、ほとんどの介護施設が身元引受人や身元保証人を必要としています。「高齢者住宅財団」が実施した「サービス付き高齢者向け住宅等の実態に関する調査研究」においても、約8割のサービス付き高齢者向け住宅で身元保証人や身元引受人を必須としています。
身元保証人や身元引受人は、その多くが家族にお願いすることが一般的ですが、「身寄りがいない」「身寄りはいるが高齢のため身元保証人になれない」「身寄りはいるが、疎遠、もしくは遠くにいるのでお願いできない」「お願いしていた身元保証人が死亡したため新たに保証人が必要」など、さまざまな理由から問題が生じるケースがあります。
また、近年の未婚率の上昇や、一人暮らしをする高齢者数の増加に伴い、もともとこうした身元引受人をお願いできる家族がいない、という高齢者も増えてきています。夫婦で暮らしていたとしても、突然どちらかが他界してしまえば一人暮らしになってしまいます。今はお願いできる人がいたとしても、将来、身元引受人がいなくなるのではないかという不安を抱える高齢者は今後増々増加すると見られています。

身元保証人や身元引受人は、なぜ必要なのか?
家賃などの支払いにおける経済的保証
介護施設に入所する、病院に入院する際に必ず発生するのが料金などの支払いです。入院費や家賃、食費などの月額利用料の支払いが万が一遅れてしまった際に、身元引受人がいない場合は「連帯債務」を負う人に、これらの支払いを求めることができます。介護施設の中には、身元引受人とは別に、この役割を与えられた支払い能力のある保証人も必要とする施設もあります。
事故や病気、死亡時など緊急時の連絡先として
高齢になり、持病を持っていたり介護を必要としたりする場合、どうしても事故や急変などのリスクが高まります。また、年齢を重ねれば認知症などにより判断能力の低下などの可能性もあり、医療処置や介護方針などにおける本人の意思決定ができない場合も少なくありません。急変時や事故の際の緊急連絡先として、若しくは本人に意思決定が難しくなった場合の判断者として、身元引受人が必要なのです。
死亡後の退居手続きや身柄引き取りなど
老人ホーム入所者が死亡した場合の、体の引き取りや葬儀の手配などに関する責務を負う役割が身元引受人にはあります。また、死後の退居時の荷物の引き取りや医療費、利用料の未払い分の清算をする責任も求められます。
このように大切な役割と責任がある身元引受人や保証人は、身寄りがいない方はもちろんのこと、疎遠になっている家族にお願いしても拒否されることがあり、「身元引受人がいない」という高齢者が少なくないのです。
身元引受人と成年後見人との違いについて
上記で説明した「身元引受人」と似ているのが「成年後見人」です。成年後見人がいれば身元引受人がいなくても入所可能な施設もありますが、実は成年後見人と身元引受人の役割は似ているようで大きく違います。
身元引受人 :
入居者が病気や事故、死亡、支払い能力の低下時に相談や協議、対応を行う人
保証人 :
利用料金・家賃などの支払いの義務や債務を入居者が支払いが難しくなった際に負う人
成年後見人 :
入居者の判断能力が低下した場合、本人に代わって契約などの財産管理を判断・代行する人
成年後見人は民法上で定められた法律上、本人の財産管理をする権利が与えられた「法定代理人」です。そもそも、成年後見人が立てられるのは、本人が認知症などにより判断能力がない場合であり、そうした場合に本人に代わって契約や税金の支払い、財産管理などを行う役割を担っています。
基本的には、成年後見人はあくまでも入居者の財産管理を行う「法定代理人」であり、債務の負担などを負う役割はありません。そのため、介護施設の運営会社が身元引受人に対して家賃など請求する費用の「連帯責任者」としての役割を求める場合、成年後見人では身元引受人のような役割を担うことは実務上難しいといえます。
また、認知症など判断能力が低下していないとそもそも成年後見人を立てることができなので、自立した高齢者の方やご自身で契約などの判断ができる状態にある方は、成年後見人を身元引受人の代わりに、という手段をとることもできません。