Lesson3-3  終末期医療:尊厳死宣言書

人間として尊厳を保った死を迎えたいと考える人が増加しています。「尊厳死」とは、自分の意思を表明できないような、回復の見こみがないような重い病状で末期の状態で、人工呼吸器や人工心肺装置などの生命維持装置によって過度な延命目的の治療することをやめ、闘病生活を終わらせることです。精神状態が健全なときに作成し、万一の場合に備えるものです。よく似た言葉に「安楽死」がありますが、これは、緩和もできず、耐えられないような苦痛から死をもって逃れる、というような意味合いであり、日本では合法ではありません。

内容について

1通は医師へ提出、もう1通は家族や信頼できる人達との共有目的で2通作成されることが多いようです。

この内容を公正証書化する「尊厳死宣言公正証書」とは、尊厳死を希望する旨の外部に対する宣言を公正証書という形で記録したものです。公正証書というと大げさに聞こえますが、もし第三者が悪意を持ってねつ造した場合、本人の意思に反した「殺人」につながるかもしれないのです。このようなリスクを避けるため、公正証書化しておく方々も増えています。

e233fe3c3e536416799be83af4055c7e_s

尊厳死宣言書の内容

ここでは、日本尊厳死協会の尊厳死の宣言書を定型フォーマットとして以下に掲載いたします。遺された者や医療従事者に刑事罰の疑いがかからないようにすること、延命目的のみの措置を行わないことを伝えます。了解を得た家族の署名捺印を添える形式もあります。

年 月 日

私は、私の傷病が不治であり、且つ死が迫っている場合に備えて、私の家族、縁 者ならびに私の医療に携わっている方々に次の要望を宣言いたします。
この宣言書は、私の精神が健全な状態にある時に書いたものであります。
従って私の精神が健全な状態にある時に私自身が破棄するか、又は撤回する旨の 文書を作成しない限り有効であります。

(1)私の傷病が、現在の医学では不治の状態であり、既に死期が迫っていると診断さ れた場合には徒に死期を引き延ばすための延命措置は一切おことわりいたします。

(2)但しこの場合、私の苦痛を和らげる処置は最大限に実施して下さい。そのため、 たとえば麻薬などの副作用で死ぬ時期が早まったとしても、一向にかまいません。

(3)私が数カ月以上に渉って、いわゆる植物状態に陥った時は、一切の生命維持措置 をとりやめて下さい。

以上、私の宣言による要望を忠実に果たしてくださった方々に深く感謝申し上げる とともに、その方々が私の要望に従って下さった行為一切の責任は私自身にあるこ とを附記いたします。

年  月  日

自署    氏名

明治 大正 昭和 年 月 日生

住所

実際の運用について

実は、医師が家族から尊厳死宣言書を提示されたとしても「絶対にその内容に従わなければならない」という法的拘束力を伴うものではありません。しかし、日本尊厳死協会が行った2012年アンケート調査によると、医療側に提示した「尊厳死の宣言書」が「最期の医療に生かされた」のは92%です。この数字からは、延命治療をやめることが医師としての倫理上許されないなどの場合でない限りは、一定の効果があるものといってもよいかもしれません。公正証書は「本人が作成した」という点を証明するものであり、法的拘束力を担保するものにはなりません。

公正証書としての尊厳死宣言書作成手続き

この「尊厳死宣言書」については、前述したように第三者による捏造のリスクを避けるため、作成する場合には公証役場を利用し、公正証書の形にしておくことが望ましいでしょう。というのも、仮に直筆で書いてあったとしても、医師がそれを見て本当に本人の筆跡かどうかを判断することは困難です。そこで疑いが生じると「尊厳死宣言書」自体が意味のないものになってしまうかもしれません。

手順としては、原則としては公証役場を訪れて公証人の面前で「自分が不治の状態になり死期が迫った時に、こうしてほしい」という意思を伝えます。それを受けて公証人は印鑑証明書の提出と、その印影の実印をもって面前の人間が本人かどうかを確認し、またその家族が本人の尊厳死を希望していることを了解しているかどうかを書面によって確認します。