Lesson3-2  終末期医療:事前指示書

今や8割の人が病院で死を迎える時代です。従来は、治らない見込みの場合、日本の病院は、家族にだけ病状を告知し、本人には告げないというスタイルでした。しかし、最近は患者個人の意思を大切にする病院が増え、本人に告知する場合も多くなりました。

とはいえ、自分以外に誰も同席しない、告知のショックや恐怖を共有して和らげてくれる相手がいない、という一人暮らしの方もいらっしゃいます。友人に頼むことも可能ですし、看護師や医療ソーシャルワーカーに相談すれば同席してくれることもあります。許可を得て、録音しておき、後から冷静に聴くという手段も考えられます。そして、もし誰にも病状を知られたくないという場合は、その権利を守るためにも、医師に知らせておきましょう。いずれにしても、医療従事者との信頼関係の上に、告知があるということです。

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終末期医療の事前指示書

事前指示書は

・自分自身が治療の選択について自分で判断できなくなった場合に備えてどのような治療を受けたいか、もしくは医療処置を受けたくないか
・自分で判断ができなくなった場合は誰に今後の治療について自分の代わりに判断してもらいたいか

を、事前に明示する文書です。最期まで自分らしく自分の望んだ治療を受けられることを目的としています。

2005年の時点では、事前指示書の作成状況はわずか3.2%となっています。事前指示書は何回でも書き直すことができます。また、事前指示書の内容と家族の意見が異なる場合、基本的には事前指示書に記載されている本人の意思が最優先となります。さらに、日本での事前指示書は、未だ法的な拘束力がないとされており、仮に医療者が事前指示書通りの医療を実施しなかったとしても、法的な罰則はありません。しかし、2018年厚生労働省による調査では、「事前指示書」の作成には66.0%の人が賛成、このうち実際に指示書を作成済みの人は8.1%でした。多くの人たちが必要性を認めていますが、前進したものの実際の運用には課題が残っています。

内容について

全国的に統一フォーマットはありませんが、病院や行政、NPO法人などで入手することができます。必ず記載するべき項目としては、代理人の指示と内容の指示の記載があります。

代理人の指示とは、自分に判断能力が無くなった際に、自分の医療やケアについて代わりに判断をしてほしい人を明示しておく機能です。

内容の指示は、「リビングウィル」とも呼ばれ、個別的医療やケアの内容について、その医療やケアを受けたいか受けたくないかなど、自分の意思をあらかじめ表明する項目となります。その内容は、以下の通りです。

  1. 心臓マッサージなどの心肺蘇生
  2. 延命のための人工呼吸器の使用
  3. 抗生物質の強力な使用
  4. 胃ろう増設による栄養補給の可否
  5. 鼻チューブ(経鼻からカテーテルを挿入し経管栄養材を投与する)からの栄養補給の可否
  6. 点滴による水分補給
  7. その他の希望
  8. (基本的な希望として、痛みや鎮痛に対する希望や、最期を迎えたい場所について記載する欄がある場合もあります)

運用について

内容を記入後、押印、家族と共有しておきましょう。一人暮らしの方は、代理で意思表明をしてくれる人と共有します。大切なのは、自分一人のものにしないことです。指示が伝わり、実行されることで効果があらわれるものですから、まず「存在」していること、「どこに保存しているか」(デジタルでも紙でもOK)を必ず家族や周囲に知らせてくださいそして記載内容を変更した場合は、必ず彼らと担当の医療従事者が適宜共有するようにしましょう