最高裁事務総局家庭局による統計では平成26年(2014年)12月末時点で任意後見制度利用者数は2,119人でした。この4年前の平成22年(2010年)の利用者数は1,475人だったので制度利用者の数は年々増加傾向にあります。しかし、任意後見制度を悪用して、遺言書を書かせたり、勝手に財産を処分するという犯罪が発生しており、注意が必要です。

任意後見制度のメリット
任意後見契約では、前述した業務範囲の中から自分で必要と思われる項目だけを契約に盛り込むことが出来ます。更に具体的にどういった介護や治療を受けたいか、自宅の売却の際の要望等を契約書に盛り込むことも可能なので、当人の意向を最大限実現出来る内容にすることが可能となります。この点が任意後見契約の大きな魅力=メリットと言えるでしょう。
任意後見制度のデメリット
死後の事務や財産管理をお願いできない
任意後見制度の契約は、被支援者が亡くなると同時に修了してしまいます。そのため、もし一人暮らしで親族のいない人が亡くなった場合の、葬儀・墓の手配・家の片付け・財産管理を行ってもらえず、被支援者の不安につながります。この点は、死後事務委任契約などに託すことができます。
法定後見制度のような取消権がない
取消権とは、被支援者が判断能力を持っていないのにもかかわらず、任意後見人が立ち会わずに不利な契約をしてしまった場合に、その契約を取り消すことができる権利のことです。すでに判断能力が低下している成年者に対して利用される法定後見制度では、この取消権がありますが任意後見制度では取消権が認められていません。そのため、不利な契約を誤って結んでしまったとしても、それを取り消すことができません。
また、契約内容を自分で決められる、という事は、契約に書かれていない項目については、任意後見人は手を付けることが出来ません。契約内容を決めるときには細心の注意が必要となります。
任意後見制度は利用し始めるタイミングが難しい
被支援者の判断能力が低下した時点で任意後見制度がスタートされます。しかし、任意後見人が被支援者と同居している親族でない場合は、本人の判断能力がどれだけあるのか判断を下しにくい傾向があります。
後見人選択によるリスク
後見人を自分の意思で決めることが出来るという事は、親族の中から選任した場合、親族間に亀裂を生じさせる危険性もあります。全て自由に出来るという事は、全て自己責任になるという一面をよく認識しておく必要があります。信頼と期待を寄せた後見人が、後になり裏切るケースも多々あります。晴れて後見人に就任した途端に、自己解釈で勝手に本人の財産を私的流用するケースは少なくありません。残念なことに親族後見人以外でも、専門家が後見人(士業従事者等)の場合でも同様の事例が発生しています。
任意後見監督人の選任を申し立てない場合のリスク
前述したように、親族や後見人受任者から後見監督人の選任申立がない限り、家裁は実情を把握出来ません。申立がされない以上、本人は「正常な判断能力あるとみなされる」わけですから、どういうお金の使い方がされていても本人の意思で、了解の上でという解釈となります。後見契約が発動後であれば監督人のチェックが働きます。